15 初めてラクダに乗った「月牙泉」の沙漠

 さて私たちは、ホテルのレストランでおきまりの「中華料理」を食べた後、郊外の鳴沙山(めいさざん)に向かった。鳴沙山は莫高窟の横にある大砂丘で、中に太古から水の絶えない月牙泉(げつがせん)がある。盛り上がった砂丘の真っ直中の、長さ200m幅50mの三日月型の池である。バスが集落に近づくと、祭りのパレードに出くわした。どうも観光用らしいが、むかしの衣装をした数十人が竹馬に乗って早足でパレードをしている。

 その列を追い越すと、しばらくして入り口に着いた。門内に入ると、180度に広がる大砂丘があった。そして無数の人がラクダに乗り、また歩いて砂丘を目指していた。そこは、 「ギャー」だの「グギー」というラクダの声と、「ハイハイ」「ホーホー」とかいうラクダ使いの声、それにラクダの背の客の「キャー」「ウワー」とか言う声が入り混じって、騒然とした雰囲気だった。ラクダは、予想通り双こぶであった。ふたこぶはだいたい中国だけで、インドやイラン、アフリカはひとこぶだ。ラクダは沙漠にもっとも適した動物で、遊牧民にとっては財産でもある。ガイドに聞くと、日本円で5ー7万円くらいといっていたが、当地でも「食費」がかかるので嫌われて、数も減っているということだ。


鳴沙山での乗駱駝 (左から二番目が筆者)
 やがて私にも「乗駱駝」の番が巡ってきて跨ったが、ラクダ使いは(踏ん張って両手で前の鞍を押さえろ)という身振りをする。ラクダはいきなり後ろ足を立て、私はガンと前につんのめった。話には聞いていたが、これはすごい。落ちると、首の骨を折りそうである。逆に、降りるときは前足を折って座る。歩き出すと、左右の揺れがひどい。同じ側の前後足をほぼ同時に出すからだ。経験から言うと、馬の場合は上下動が大きい。象は前後動である。数十頭のラクダ達が巻き起こす砂が、煙となって全身を覆う。息が苦しい。とても「月の砂漠」を歌う雰囲気ではない。それでも、私はサハラ砂漠でも乗ることができなかった「乗り物」に乗ることができて、興奮していた。