帰国できないルーマニア人の踊り子たち 旅に纏わる話・まつわらない話(3)

                  関西空港オフィシャルサイトより転載

 年末の関西国際空港は、何となくせわしい空気が漂う。場内アナウンスはいつも通りだが、人々の動きが何となく慌ただしい。そういうなかに、小太りな派手な感じの中年女性と頼りなさそうな「遊び人」風の若い男が、公衆電話の前で口論していた。よく見ると、女性の方が若い男を叱っている。男はなんか言い訳がましいことを言っている。女性は「あんたがちゃんと連絡しないからでしょう!」などと言っている。「夫婦でもなく、親子でもなさそうな関係だな」と思って通り過ぎた。
案内カウンター  関西空港オフィシャルサイトより転載
 時間があったのでベンチに座っていたら、若い大変派手な白人女性の一団5人が、電話コーナーで声を張り上げていた。どこかへ何度も電話していたが、どうもうまくゆかないらしい。言葉はラテン系の言葉らしかったが、意味は不明である。そのうち一人がやってきて、「スミマセン、ペンカシテクダサイ。」と妻のペンを借りていった。それからまた電話をかけている。そしてペンを返しに来てこう言った。「アリガトウゴザイマシタ。コマッタヨ。ワタシタチ、タスケテクダサイ。」

 私たちは外国人が困っているのを助けるのには異議はなかったので、事情を聞いてみた。彼女たちが日本語と英語で説明したが、内容はこういうことだった。彼女たちはルーマニア人のダンサーで、九州の温泉地で働いていた。契約がすんで、母国ルーマニアに帰ろうとしたが、日本滞在ヴィザが切れてしまっていたので、航空会社カウンターで受け付けてもらえなかったらしい。「ワタシタチ、ダマサレタ!」と声を大きくして口々に言った。訳を聞くと、日本に来て3ヶ月で滞在ヴィザが切れたが、プロモーター側の男が手続きをまったくせず、6ヶ月経ってしまった。そのため帰れないと言うのだ。意図的か単なるミスかは分からないらしい。

 私は不思議に思って、「そんなことになって、ここにプロモーターの人はいないんですか?」と訊いた。「イルヨ、アソコニ!」と指さした先には、最初に登場した男女がいた。「アノオトコ、ウソツキ、ワルイヒト、カオミタクナイ、キライ!」と興奮して言った。知っている悪い表現の日本語全部の様だった。電話していたのは、ルーマニア大使館に連絡をとろうとしていたのだ。だが彼女たちは、電話番号さえも分かっていなかった。そこで妻がカウンターに行って、大使館の電話番号をもらって、彼女たちに渡してあげた。

                

関西空港オフィシャルサイトより転載

 しかし考えてみると、彼女たちはその意に反して、法的にはいわゆる「オーヴァーステイ」=「ヴィザ切れで不法滞在者」であり、「法を犯した者たち」になる。この場合は、法務省入国管理局に出頭し、「処分=強制送還等」を受けることとなる。また、頼みのルーマニア大使館も日曜日で休館だろう。いったい彼女たちはどうなるのか?かなりややこしくなりそうだ。しかし、そうこうしている内に、私たちの飛行機の案内がアナウンスされたので、若干後ろ髪を引かれながらも、彼女たちと別れた。

 現在の日本には、テレヴィのドキュメンタリー番組で報道されてしている様に、中国、ヴェトナムなどから密入国が増加している。また中国、フィリピンなどからダンサーの名目で入国し、ヴィザが切れても「不法滞在」する例も後を絶たない。しかし今度の例で分かる様に、招聘側の日本のサイドに大変な問題があるケースが判明した。またもう一つ驚いたことは、日本人からは「遠い国ルーマニア」からも「出稼ぎ」が来ているという事実であった。いずれにしても、彼女たちが無事に帰国できていればよいが・・・。

 
 2002/12