今年(2004)になってタバコに関して新しい動きがあった。一月になって、日本の財務省がタバコ広告を公共性の高い場所で全面的に禁止する方針を固めた。すでに2005年からタバコの箱に健康への「危険性」を明記することが決定されている。このように、先進国中「取り組みが遅れている」といわれる日本でも、WHOの決定である「タバコ規制枠組み条約」によって粛々と取り組むようになっている。
このような決定は、人口の6割強を占める「たばこを吸わない人たち」から歓迎されているが、まだまだ現状は「寒い状況」であると言わざるを得ない。タバコに関しては、「多数決」どころか「少数決」の状態であり、「最大多数の最大幸福」からはほど遠い。つまり「タバコを吸わない多数派」の方が「肩身が狭い」のである。
先日、わたしがよく使う旅行会社の主催による「スキーツアー」に参加した。行く先はオーストリアである。一般的に言って、ヨーロッパの国々は「禁煙先進国」であるアメリカ、カナダ、オーストラリアよりも、国の取り組み、人々の意識が遅れている。強いて言えば日本に近い。レストランあたりでも、「ノンスモーキング・ゾーン」のない所もけっこうあるのである。
さて、ツアーガイドが付いてスキーコースを一通り回っていたら、昼になった。ガイドが案内して全員でレストランに入った。見ると一階も二階も煙が充満している。しかし「全体行動」なので選択の余地はなかった。日本人だけで一区画の席に座り注文した。大体の者が食べ終えた頃、同じグループにいた「外科医」をしているある中年男性がタバコを取り出した。そしてシュパンと火をつけて吸い出した。煙はすぐにこちらに漂って来だした。妻は煙に弱く、顔をゆがめて手で鼻を覆ってうつむいている。
(日本医師会HPリンク)
私は言った。「すみません。私たちはタバコが苦手なんです。」その医者は「?!?」という表情でそのままこちらを見ている。彼の奥さんが堪りかねて、「あちらで吸ってきたら・・?」と数回言うにおよんで、やっと腰を浮かせたのだった。私はその時の彼の表情が忘れられない。彼は一言も発さず、火のついたタバコを持って姿を消した。
日本医師会はすでに、「1 医者はタバコを止めよう 2 病院では完全禁煙に向かって努力しよう・・・・」というようなことを決め、すでに禁煙推進運動は始まっている。このようななか、外科の医者がまわりに聞きもしないでタバコを吸う・・・という動作が私には理解できなかった。そしてそれを指摘されても、怪訝な顔をしているのは、なおさら理解できなかった。
(日本医師会HPリンク)
日本医師会は組織をあげて禁煙キャンペーンに取り組んでいます。
たばこと病気の関係を明らかにしていくと同時に、
みなさまの禁煙に協力していきたいと思います。(日本医師会HPより引用) |
彼は大きな病院の外科医だそうだから、日常的にガン患者の肺切除も担当しているであろう。患者から聞かれると、「タバコは止めなさい」くらいは言うであろう。後で聞いた話によると、「外科医というのはストレスが大変堪る仕事」なので、タバコだけは止められないそうである。もちろん喫煙は個人の自由であるから、私はそれをとやかく言うつもりはない。問題なのは、彼が公衆の面前で取った態度であった。
話はまったく変わるが、また別の日に日本赤十字社主催の「雪上安全法」の講習があった。これはスキー場での事故を減少させ、スキーヤーやボーダーの意識を向上させる目的で開かれているものである。私も中年になってからスキーを始めて日数は経ったが、このような講習は受けたことがなかった。しかし、この種の講習としては珍しく、スキー場のロッジに泊まりがけの行事であった。
グループ毎に部屋が決められ、4、5人ずつが荷物を持って部屋に入った。ところが荷物を置くや否や、一人の中年男性が部屋でタバコを吸い始めた。私は慌てて部屋を飛び出し、主宰者の部屋に行って説明した。その方達は、初めは私の言っていることが分からなかった。私が何度も言うと、やっと意味が飲み込めて、「では部屋内禁煙なら良いですか?」と私に訊いた。本来なら講習会計画の段階で、一部屋くらいは「禁煙部屋」をつくるということを考えていても良かったのだ。こうして彼らは各部屋を回って、「部屋内は禁煙で、タバコはロビーの灰皿のところで・・・」と言って回っていた。
あとでロビーの傍を通ると、参加者の半数がタバコを吹かしていた。これもずっと後で分かったことだが、参加者のほとんどは日赤の職員だったり、救助法講習会の講師資格を持っていたり、日赤奉仕団のメンバーであった。換言すれば、彼らは「日赤関係者」なのであった。大震災や災害の時、人命救助などでもっとも活躍する方々なのである。彼らは人命や健康については、人一倍知識も常識も持ち合わせているはずなのだが・・・。
昨日、山陽自動車道を通った。あるサーヴィスエリア(SA)に入った。外には相変わらず煙が漂っていたが、建物内部は全く煙がなかった。不思議に思って見回すと、「喫煙室」と書かれた仕切られたガラス張りの中で、一人の中年女性がひたすら煙を吸っていた。私は急にうれしくなって、足取りが軽くなった。最近いろいろ問題になっている日本道路公団だが、これは見事としか言い様がない。
そういえば近年、国内外の空港でも全くこのような状況で、非喫煙者という「社会的弱者」は肩身が狭くない。むしろ、狭い「檻のような」隔絶された喫煙室で、飛行機の出発時刻を気にしながら、必死に吸っている彼らが、気の毒に見えることもある。「すみません。タバコの煙が苦手なので・・・・」と頭を下げる必要もない。また空気のきれいな場所を探し回らないでもいい。だいたい卑屈にならなくて済む。早くこれが「当たり前」の世の中になって欲しいものである。
(日本医師会HPリンク)
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