はじめに
 ある日、我が家のファクスが静かに紙を吐き出した。H社からの便りである。H社は、その業界では知らない人はいないくらい有名な「格安航空券」を扱う会社である。私は一年前から、この会社の「ファックス情報クラブ」に入っている。その「便り」には、「日系航空会社で行くニュ−ヨ−ク、5.5万円」とか書いてある。それらの横に「シンガポ−ル航空で行くバンコク、3.9万円」というのがあった。

Singapore Airlines 
 
 シンガポ−ル航空
といえば、世界にある百以上の航空会社の中で、日本人の人気アンケ−トでは、常に一位をキ−プし続けている会社である。業界人からも、旅慣れたいわゆる「リピ−タ−」からも、ふつうのお客さんからも絶大なる支持を受けているのだ。残念ながら、我が日本の翼、日本航空も全日空も総合点では歯が立たない。新しい機体、機器、すばらしい機内食や乗務員の心温まるサ−ビス等々、私も以前に乗ってすでに高い得点を与えていた。



通称「スタンディング・仏陀」(バンコク)



 さらに魅力的だったのは、まだ一度も行ったことのない古い歴史の国で、日本ともつきあいが長く仏教国でもあるタイが、飛行機代にホテルが一泊だけついて、往復4.2万円で行けるということだ。私のアジアへの旅は、北米、オセアニア、ヨーロッパに比べて少ない。返還前のマカオや香港と中国の一部、シンガポール、韓国の釜山ぐらいなものである。急に夢が膨らんで、さっそくH社に連絡を取った。

 タイという国は、日本人には、誰もが学校時代に習ったようなこと、つまり首都がバンコクで、米の大輸出国、象のいる国、仏教の信仰の篤い国、日本の山田長政がこの国で活躍したことなどが、よく知られている。その他、中高年の映画ファンなら懐かしい名作「戦場にかける橋」の舞台となった「泰緬鉄道」がある国でもある。最近では、日本企業の工場や合弁会社が多く進出したため、東南アジアではシンガポ−ルに次いで日本人が多いといわれる。観光面では、シンガポ−ルのセント−サ島、インドネシアのバリ島などと並んで有名なプ−ケット島があり、毎年日本からの観光客が多く訪れている。

 私は昨今、アジアの国々を旅するときには、必ずその国と日本の関係、またはその国での日本人の活動を考えて行動してきた。4年前の香港、マカオ訪問の時は追放された日本人キリシタンによるザビエル教会建築とその人骨見学(?)、3年前の中国の西域旅行では仏教伝来とシルクロ−ド、2年前の韓国釜山旅行では秀吉の朝鮮侵略について考えてみた。そういう意味で、今回は第二次大戦時の日本軍の行為について見てみたいと思ったのだ。

  
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