コイバ島紀行 A Trip to Isola Coiba
1.はじめに
コイバ島はパナマベラグアス県の沖合にある中米で最も大きな島である。ここはごく最近まで流刑地として使われていたこともあってか、開発されておらず、生態系もパナマ本土と切り離されていて独自の生物相を持っている。
開発が進んでいないため、この島を訪れるのには若干の努力が必要になる。島にはホテルも店もなく、公営のロッジがあるだけなので、山小屋に泊まって登山をするぐらいのつもりで行かないといけない。
パナマ在住の日本人が語らって10名のツアーを組んだので、それに参加した。二泊三日で費用は三百ドルと少し(途中の買い物等も含む)。参加者の平均年齢は59歳であった。パナマ大学の観光学科の教授が窓口となってくれ、また自身が案内役としてついてきてくれるという破格の条件で話が決まったが、詳細をつめるには多くのやり取りがあって幹事役は大変だっただろうと思う。
2.行程
早朝にベラグアス県の県庁所在地のサンチアゴをチャーターしたバスで出発。ビールがないと一日も過ごせない人もいるのでビールやらミネラルウォーターやらお菓子やらを24時間営業のスーパーで買い込んだ。食事は料理人一名を雇い、その人が材料を用意した。
実はパナマではごく最近午前3時から9時までの酒類の販売を禁止するという法律ができた。それを知らずにビールを買おうとして拒絶され、あわやビールなしの旅行となるか、と危ぶまれたが、田舎の酒屋に頼み込んでなんとかビールを確保した。
バスで40分ほど南下してPuerto Mutisという漁港からボートに乗り、コイバ島へ。所要時間は二時間と少し。あいにくの雨天で寒く、ボートは簡単なほろが付いているだけで雨は降りこんでくるし、どうなることかと思ったが、外洋に出て気温が上がり楽になった。こんなちゃちな船で大丈夫かと思ったが、コイバ島には桟橋はひとつしかなく、内陸部には道もないので、ボートで砂浜につけて上陸するしか交通手段がない。喫水の深い船では行動が制限されるので、結局このような船にならざるを得ない。
交通に使用したボート
3.宿泊
コイバ島は50名ぐらい宿泊できるロッジがある一角と、監獄があった一部の区域のほかは人が住んでいない。ロッジでは電気は午後7時から10時ごろまでしか供給されない。ベッドにはダニがいてかまれる。しかし、トイレは水洗で、施設の掃除はいきとどいている。部屋はベッドが7つと5つの二部屋を使った。
施設には数名の若い職員がいて、管理運営を行っている。夜は職員たちが集まってドミノで遊んでいた。パナマのゲームで一番人気はドミノである。
ロッジは森を切り払った小さな区画内に数個ある
海岸側から見た施設
4.サンゴ礁
到着後、若干天気は悪かったが近くのIslote Granito de Oro(黄金色の花崗岩の小島、という意味かと思う)にシュノーケルを持って泳ぎに行った。小規模なサンゴ礁がいくつかあって、魚もたくさんいる。周囲が青くふちどりされている美しいクマノミを見た。全体にサンゴも魚も地味ではあった。私は知らないのだが、沖縄当たりのサンゴ礁の方が派手なのではないかと思う。天候が悪かったためもあってか、海は期待したほど美しくはなかった。もともと水の色は少し緑がかっており、砂がベージュ色で、色彩としては白砂のサンブラス(パナマのカリブ海側の海、行ったことはない)ほどの派手さはないものと思われる。
Islote
Granito de Oro
5.ワニ
ロッジに帰るとワニが出ているから見に来いという。ロッジの裏側に当たる海岸に全長2メートルほどもあるワニが悠然と居座っていた。ときどきえさをやるとかで、それをあてにしてやってくるのだろう。ロッジのある地域には入り込まないから大丈夫という。
6.食事
食事は料理人が作ってくれたパナマ食だったがおいしかった。パナマ食は基本的には米食である。
6.遊歩道
到着翌日も天気は回復しなかったが、温泉があるということででかけた。遊歩道を20分ぐらい歩いたところに温泉がある。泉源は50度Cぐらいの温度で、それをちいさな露天のプールに引いている。プールは40度Cぐらいで日本人には適温。なにもない自然の島の中の温泉におじさんたちがつかった。
遊歩道
温泉
そこから船で移動して「サル」が出るという別の遊歩道を歩く。残念ながらサルには出会えなかった。なんでも小さなサルと少し大型で吠えるサルがいるとか。遊歩道を抜けると海にそそぐ小さな滝に出た。
滝を降りる
7.生物
魚は別としても、様々な生物が生息している。
遊歩道で出会ったタランチュラ(25cm)
黒い鷲がたくさんいる。この鷲はパナマでは国内どこでもいる。魚市場などにもペリカンと競争で残飯あさりに来るようなたくましさも持っている。
雨が降ったので羽を乾かしているところだろうか。
腹の赤いきれいな鳥もいる。
これはなんだろう?鷲っぽいけど頭が赤い。
カワセミとそっくりな鳥。形も飛び方も似ている。
大型のげっ歯類。大きなねこほどの大きさ。
イグアナ(体長40cm)
首の長い鳥
インコ
8.監獄
前述のように、この島は流刑地であった。一部に監獄の跡もある。島流しとなった罪人のすべてが監獄に入ったわけではないらしい。品行方正な人はある程度自由な行動を許され、農耕なども行っていたとのこと。島には10か所程度の罪人の集落が分散していてそれらの集落間にはいがみあいによる喧嘩や、場合によっては果し合いのようなものもあったそうである。看守のような人もいたらしいが、罪人が自由に行動し、看守が檻の中に入って身を守って生活をしたという話も聞いた。
このような場所であるから、当然のように拷問などもあったと伝えられている。木に縛り付けて虫が刺すのに任せるなどという当地ならではの拷問もあったらしい。
現在新しい監獄が建設されており、どうも近々監獄として復活するようである。世界遺産の島に監獄でいいのかな、と思わないでもないが。
流刑地とは無関係な話だが、ノリエガ国家最高指導者(独裁政権時代の)はときどき散策のためにこの島を訪れたそうである。
昔の監獄を公開している。
新しい監獄。どうも監獄を復活させる様子。
9.環境の維持
案内役として来てくれたパナマ大学の教授も参加してこの島の観光資源としてのありかたなどを議論した。交通機関としてのボートの信頼性にやや難があること(整備状態や悪天候への対応など)、パナマの常識的なサービスの概念では国際的な基準を満たしえないであろうことなどが指摘された。一方で観光化による環境破壊の懸念も取り上げられた。旅行者が快適に過ごせて、その結果旅行者の数も増え、観光産業が潤うようにしようと思えばそれだけ大きな環境破壊も行わなければならない。ダニのいるベッドや不便な交通は、「自然のまま」の島を維持するには容認しなければならないのではないかという意見も出された。
10.感想
観光開発がまだ進んでおらず、「人間よりも自然の方が勝っている」状態でこの島を見ることができたのは筆者にとってはすばらしい経験だったと思う。
自然のままということは人間には不便なところもあるわけで、それに耐えられない人はこの島を訪れることは難しい。今回のメンバーは皆たくましく、全く問題なく行程を消化できたのはありがたいことであった。
出発した際、ボートのエンジンがやや不調でいったん引き返してボートを交換した上で再出発した。船長の判断が良かったと言えるが、一方でそのような事態を招かぬように保守整備のレベルの向上が必要であると思われた。バッテリーがむき出しで置いてあったり、工具の手持ちが乏しかったりと、安全運航については改善の余地が多くある。今回海はおだやかで、危険を感じることはなかったが、外洋に出るだけに荒天時の対策もきちんとしておいてほしいものである。
(この項終わり)
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