No.5 パナマの蝶 2011/7/19


 昔から蝶が好きで、小学生のころは昆虫採集に情熱を傾けていた。今は採集はしないが、蝶を見るとカメラを持って追いかけている。

パナマの蝶で有名なのはモルフォ蝶だが(パナマだけにいるわけではなく、中南米に分布している)、それは、森の中でちらりとそれらしいものを見ただけである。しかしそこらにもいろいろな蝶がいて楽しめる。ただ、パナマの蝶はめったにとまらない。熱帯のせいだろうか、活動が激しい。このため写真を撮るのは大変に難しい。

さて、そうは言え、いろいろな場所で撮った蝶の写真が多少集まったのでここに掲載したい。ただし名前は全くわからない。自然環境関係の仕事をしている人を通じて昆虫の専門家に聞いたら、パナマの蝶の図鑑で手に入れられるものはないとか。ただしコスタリカの図鑑ならあるという。さすがにコスタリカは環境立国を目指すだけのことはあるようだ、と思う。

ともあれ、撮影できた蝶の写真を見ていただきたい。中には蛾か、それに近い種類のものもある。

蝶1:この型のものは毒蝶と呼ばれているものかもしれない。ただし日本の毒蛾と違い、触ると痛いというものではなく、食べるとまずい、というものだそうである。(だれか食べてみたのかな?)

蝶2:蝶1と同じような型だが模様が違っている。

蝶2:つがい?

蝶3:せせり蝶の仲間と思う。

蝶4:日本にはない尾の長い型だが、そのほかの部分はせせり蝶のようである。飛び方もせせり蝶っぽい。

蝶5:少し小型だがしじみ蝶よりは大きい。日本には類似の蝶はいないかも。

蝶6:日本の一文字蝶とよく似ているが赤がきれいに入っていて一文字蝶よりもきれいだ。一文字蝶が属しているみすじ蝶の仲間はけっこういるようである。

蝶7:模様は日本のひおどし蝶に似ているが、形はじゃのめ蝶のようである。

蝶8:表はからすアゲハに似ている。少し大型の蝶。

蝶9:夜に自宅に飛び込んできたので蛾の一種かも。しかしなかなか美しい。


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No.6 パナマの国立オーケストラ 2011/7/31

              パナマ国立交響楽団
          LA ORCHESTA SINFONICA NACIONAL DE PANAMA

以前に報告したとおり、インターネット上ではとても見つけにくい、まぼろしのオーケストラをついに聴くことができました。

2011727日にテアトルナショナル(国立劇場)で演奏会があって聴きに行ってきました。このテアトルナショナルというのはヨーロッパのオペラハウスのような作りになっています(といいながらヨーロッパのオペラハウスを見たことはないのだが)。ボックス席が4階まであり、美しい装飾や天井画があってとても素敵な会場です。

チケットは近くのレンタルCD店で手に入れることができました。
曲目はチャイコフスキーの交響曲第四番と、同じくチャイコフスキーのピアノ協奏曲第一番でした。
 

 タクシーで会場に乗りつけると、正装の紳士淑女がロビーでワインなどを飲みながら談笑していました。私自身はといえば、多少ましなワイシャツを選んで着て行ったという程度です。

飲み物はただで振る舞われているようでした。飲めばよかったけれども、仕事の後なので寝てしまいそうだと思い断念。

チケットを見せると案内係がうやうやしく案内してくれます。我々は正面近くの3階のボックス席でした。ひとつのボックスに10席ぐらいの椅子がありました。ボックスの中は特に席が指定されていないようで、早めに行った我々は最前列の席を確保することができました。客の入りは会場の収容人員の半分より少ないぐらいではないかと思います。

さてなんと時間通りに始まりました(パナマでは1時間ぐらい遅れても全く不思議ではない)。緞帳が上がる前に、まず主催者のスピーチがあり、指揮者の紹介がありました。パナマ人は儀式が大好きで、こういうところはちゃんとやるのです。

緞帳が上がりますと、すでにオーケストラが並んでいます。一般的にシンフォニーの場合は緞帳は使わず、舞台が明るくなってオーケストラが入場してくるところから始まりますが、パナマのやりかたはオペラの演出っぽいですね。

いよいよ演奏です。話には聞いていましたが、なるほどあまり上手なオーケストラではないということがわかりました。上手な人もいるが、下手な人もいるという状況のようで、層の薄さが反映しているようです。

弦楽器は上手な人もいて、それにひっぱられて全体としては良い音楽になっているように思います。難しいところになるとあせって速くなったり、弾けなくて遅れる人もいて、ややバラバラになります。しかし、気にしなければ楽しめるレベルだと思います。

管は正直大変下手で、素人の私が聞いても相当音がはずれてしまっていて、回転ムラのあるLPレコードを聴いているような気分でした。いや、すべての人がというわけではありませんが。

指揮はオーケストラの技術レベルと音楽の作りをなんとか折合わせながら振っているようで、音楽として前に進んでいく演奏ではなく、むしろ後退する演奏になっているという印象を受けました。間違ってはいけない、ということを優先しすぎて音楽を殺していないか?という疑問はややあります。そこは意識を変えればなんとかなるのではないか?、もう少し指揮者が引っ張っていけないものか?、と思うのですがどんなものでしょう。

いずれにしても、アマチュアレベルと言い切ってしまうのはまあ少し酷なようで、一応ちゃんとその教育を受けた人たちが集まっているオーケストラのように見えます。しかし一方で、この演奏を聴いていると、日本のオーケストラがいかに上手かわかります。地方のオーケストラでもパナマの国立オーケストラに比べれば格段に良い音楽を作っていると思います。

二曲目のピアノ協奏曲のソリストはAlexander Panizzaというカナダ生まれの方で、ばっちりピカピカのソリストで素晴らしい演奏でした。それだけに快速に飛ばすピアノとよたよたとついて行くオーケストラという演奏になりました。

曲が終わりますとこれまた熱狂的な拍手が起こり、スタンディングオベーションまでありました。演奏の内容はともかく、この場の雰囲気を盛り上げて一緒に楽しもう!、という感じでしょうか。これもかなりパナマっぽいやりかただと思います。
 

 もともとチャイコフスキーの音楽、特に交響曲は流れの悪い曲だと思います。それを音楽として続けて聞かせるにはそれなりの音楽の造りが必要で、ちょっとへたなオーケストラがやるとぶつ切れの音楽になりがちです。残念ながらパナマのオーケストラはまだぶつ切れの段階ですね。

これらの音楽はロシアの沈んだ感じの音楽だとも思うのですが、パナマのオーケストラがやるとやけに明るい曲になってしまうのが面白いところです。できれば今度はもともと明るい曲を聴いてみたいと思っています。その方がこのオーケストラに合っていると考えます。
 

 ステージには反響板がなく、正面にタペストリーがかかっていて、シンフォニーをやるには音響がちょっと不満かな、と思わないでもありませんでした。なぜか袖の幕がほとんど上げられていて舞台裏に真っ赤な敷物が真っ白なガムテープで留めてあるのが丸見えだったり、中を人が通るのが見えたりしました。袖幕を上げたのは音響を意識してのことなのかもしれませんが、演出にはもう少し気を遣ってほしいものです。案内係のうやうやしさに比して舞台の演出の稚拙さが私にとってはちぐはぐで文化の違いを感じさせました。
 

 聴衆は演奏中カメラのフラッシュはたくわ、私語はするわ、椅子は倒すわ、携帯電話はかかってくるわで、これもチャイコフスキーほど深刻な音楽でなければもう少し許せるがなあ、と思ったりもしました。オーケストラのバイオリニストがピアノのカデンツァのあいだじゅう弓で肩をたたいているという場面もありました。初めて見た。

結論としては、「演奏以外はなかなか良かった」。そう、演奏は演奏会に行く目的のごく一部(10%ぐらい)だと思ってしまえば、ロビーで一杯やって、知り合いと楽しく話をし、一張羅の服を着る機会が得られ、カスコビエホ(世界遺産になっているパナマの古い街並)のレストランで食事もできるという楽しい一晩を過ごすことも可能なのです。

                             ロビー

会場内部

                              天井画


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No.7 コイバ島紀行 2011/12/31
         コイバ島紀行 A Trip to Isola Coiba

     

1.はじめに

コイバ島はパナマベラグアス県の沖合にある中米で最も大きな島である。ここはごく最近まで流刑地として使われていたこともあってか、開発されておらず、生態系もパナマ本土と切り離されていて独自の生物相を持っている。

開発が進んでいないため、この島を訪れるのには若干の努力が必要になる。島にはホテルも店もなく、公営のロッジがあるだけなので、山小屋に泊まって登山をするぐらいのつもりで行かないといけない。

パナマ在住の日本人が語らって10名のツアーを組んだので、それに参加した。二泊三日で費用は三百ドルと少し(途中の買い物等も含む)。参加者の平均年齢は59歳であった。パナマ大学の観光学科の教授が窓口となってくれ、また自身が案内役としてついてきてくれるという破格の条件で話が決まったが、詳細をつめるには多くのやり取りがあって幹事役は大変だっただろうと思う。

2.行程

早朝にベラグアス県の県庁所在地のサンチアゴをチャーターしたバスで出発。ビールがないと一日も過ごせない人もいるのでビールやらミネラルウォーターやらお菓子やらを24時間営業のスーパーで買い込んだ。食事は料理人一名を雇い、その人が材料を用意した。

実はパナマではごく最近午前3時から9時までの酒類の販売を禁止するという法律ができた。それを知らずにビールを買おうとして拒絶され、あわやビールなしの旅行となるか、と危ぶまれたが、田舎の酒屋に頼み込んでなんとかビールを確保した。

バスで40分ほど南下してPuerto Mutisという漁港からボートに乗り、コイバ島へ。所要時間は二時間と少し。あいにくの雨天で寒く、ボートは簡単なほろが付いているだけで雨は降りこんでくるし、どうなることかと思ったが、外洋に出て気温が上がり楽になった。こんなちゃちな船で大丈夫かと思ったが、コイバ島には桟橋はひとつしかなく、内陸部には道もないので、ボートで砂浜につけて上陸するしか交通手段がない。喫水の深い船では行動が制限されるので、結局このような船にならざるを得ない。

交通に使用したボート

3.宿泊

 コイバ島は50名ぐらい宿泊できるロッジがある一角と、監獄があった一部の区域のほかは人が住んでいない。ロッジでは電気は午後7時から10時ごろまでしか供給されない。ベッドにはダニがいてかまれる。しかし、トイレは水洗で、施設の掃除はいきとどいている。部屋はベッドが7つと5つの二部屋を使った。

施設には数名の若い職員がいて、管理運営を行っている。夜は職員たちが集まってドミノで遊んでいた。パナマのゲームで一番人気はドミノである。

ロッジは森を切り払った小さな区画内に数個ある

海岸側から見た施設

4.サンゴ礁

到着後、若干天気は悪かったが近くのIslote Granito de Oro(黄金色の花崗岩の小島、という意味かと思う)にシュノーケルを持って泳ぎに行った。小規模なサンゴ礁がいくつかあって、魚もたくさんいる。周囲が青くふちどりされている美しいクマノミを見た。全体にサンゴも魚も地味ではあった。私は知らないのだが、沖縄当たりのサンゴ礁の方が派手なのではないかと思う。天候が悪かったためもあってか、海は期待したほど美しくはなかった。もともと水の色は少し緑がかっており、砂がベージュ色で、色彩としては白砂のサンブラス(パナマのカリブ海側の海、行ったことはない)ほどの派手さはないものと思われる。

Islote Granito de Oro

5.ワニ

ロッジに帰るとワニが出ているから見に来いという。ロッジの裏側に当たる海岸に全長2メートルほどもあるワニが悠然と居座っていた。ときどきえさをやるとかで、それをあてにしてやってくるのだろう。ロッジのある地域には入り込まないから大丈夫という。

6.食事

食事は料理人が作ってくれたパナマ食だったがおいしかった。パナマ食は基本的には米食である。

  

  

6.遊歩道

到着翌日も天気は回復しなかったが、温泉があるということででかけた。遊歩道を20分ぐらい歩いたところに温泉がある。泉源は50Cぐらいの温度で、それをちいさな露天のプールに引いている。プールは40Cぐらいで日本人には適温。なにもない自然の島の中の温泉におじさんたちがつかった。

遊歩道

温泉

そこから船で移動して「サル」が出るという別の遊歩道を歩く。残念ながらサルには出会えなかった。なんでも小さなサルと少し大型で吠えるサルがいるとか。遊歩道を抜けると海にそそぐ小さな滝に出た。

滝を降りる

7.生物

魚は別としても、様々な生物が生息している。

遊歩道で出会ったタランチュラ(25cm

黒い鷲がたくさんいる。この鷲はパナマでは国内どこでもいる。魚市場などにもペリカンと競争で残飯あさりに来るようなたくましさも持っている。

雨が降ったので羽を乾かしているところだろうか。

腹の赤いきれいな鳥もいる。

これはなんだろう?鷲っぽいけど頭が赤い。

カワセミとそっくりな鳥。形も飛び方も似ている。

大型のげっ歯類。大きなねこほどの大きさ。

イグアナ(体長40cm

首の長い鳥

インコ

8.監獄

前述のように、この島は流刑地であった。一部に監獄の跡もある。島流しとなった罪人のすべてが監獄に入ったわけではないらしい。品行方正な人はある程度自由な行動を許され、農耕なども行っていたとのこと。島には10か所程度の罪人の集落が分散していてそれらの集落間にはいがみあいによる喧嘩や、場合によっては果し合いのようなものもあったそうである。看守のような人もいたらしいが、罪人が自由に行動し、看守が檻の中に入って身を守って生活をしたという話も聞いた。

このような場所であるから、当然のように拷問などもあったと伝えられている。木に縛り付けて虫が刺すのに任せるなどという当地ならではの拷問もあったらしい。

現在新しい監獄が建設されており、どうも近々監獄として復活するようである。世界遺産の島に監獄でいいのかな、と思わないでもないが。

流刑地とは無関係な話だが、ノリエガ国家最高指導者(独裁政権時代の)はときどき散策のためにこの島を訪れたそうである。

昔の監獄を公開している。

新しい監獄。どうも監獄を復活させる様子。

9.環境の維持

案内役として来てくれたパナマ大学の教授も参加してこの島の観光資源としてのありかたなどを議論した。交通機関としてのボートの信頼性にやや難があること(整備状態や悪天候への対応など)、パナマの常識的なサービスの概念では国際的な基準を満たしえないであろうことなどが指摘された。一方で観光化による環境破壊の懸念も取り上げられた。旅行者が快適に過ごせて、その結果旅行者の数も増え、観光産業が潤うようにしようと思えばそれだけ大きな環境破壊も行わなければならない。ダニのいるベッドや不便な交通は、「自然のまま」の島を維持するには容認しなければならないのではないかという意見も出された。

10.感想

観光開発がまだ進んでおらず、「人間よりも自然の方が勝っている」状態でこの島を見ることができたのは筆者にとってはすばらしい経験だったと思う。

自然のままということは人間には不便なところもあるわけで、それに耐えられない人はこの島を訪れることは難しい。今回のメンバーは皆たくましく、全く問題なく行程を消化できたのはありがたいことであった。

出発した際、ボートのエンジンがやや不調でいったん引き返してボートを交換した上で再出発した。船長の判断が良かったと言えるが、一方でそのような事態を招かぬように保守整備のレベルの向上が必要であると思われた。バッテリーがむき出しで置いてあったり、工具の手持ちが乏しかったりと、安全運航については改善の余地が多くある。今回海はおだやかで、危険を感じることはなかったが、外洋に出るだけに荒天時の対策もきちんとしておいてほしいものである。
                          (この項終わり)

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No.8 パナマの花グアヤカン 2012/6/1

           パナマの花グアヤカン(GUAYACAN)

  

 花の話の前に季節の話をしておこう。
熱帯のパナマにも季節というものはある。12月から4月が乾期でパナマの人は「夏」と
言う。この時期はほとんど雨が降らず、最高気温が高い。その他の時期は雨期であり、パナマでは「冬」である。雨期の終わる11月には大量の雨が降る。「春」と「秋」は存在しない。
 パナマの「夏」である乾期は植物にとっては厳しい時期である。草は枯れて茶色となり、木々はこの時期に葉を落とす。

 

 さて、花の話である。パナマに来たのが3月で、このとき、遠くに真っ黄色な花が咲いている木があるのを見て感動した。これが日本の桜に相当する(?)グアヤカンである。乾期の終わり、3月から4月にかけて黄色い見事な花が咲く。夕日にこの花はとてもよく映える。ソメイヨシノと同じようにまず花が咲き、花が散るころから葉が出て来るので満開の時は花だけが密集して見える。黄色だけでなく、ピンク、紫、白などがあるようだが、黄色の花が最も目立ち、きれいだ。花は一週間ほどで散り、散りだすと二三日のうちに散りつくしてしまうところは桜と似ている。

  

 グアヤカンの木は熱帯地方に広く分布しているとのことである。しかしパナマでグアヤカンと言っている黄色の花はアメリカ大陸特有のもののように思われるが、確信はない。
パナマでは日本ほど季節の変わり目がはっきりしない。このせいか、咲く時期は木によってばらつく。10月ごろ狂い咲いている木もあってびっくりしたことがある。いっぺんに咲かないためもあってか、パナマには花見の習慣はない。日本人だったら花見の話題は国民共通の話題で「そんなこたあ知らねえ」などという人はまずいないが、パナマでは関心のない人もたくさんいる。しかし、「グアヤカンの花が咲いたね」と言うとちょっと嬉しそうな反応があることが多い。

  

 ところでこの原稿を書くためにグアヤカンを調べたら、別名リグナムバイタ(Lignum vitae)とあった。なんだ、リグナムバイタなら知っている。硬い木で摩耗しにくいため、船舶の船尾管(スクリュープロペラの軸が外部に貫通している部分)軸受に使われていた木である。現在は樹脂の軸受かシール付の油潤滑の金属軸受が使われているが、50年ほど以前まではリグナムバイタの軸受を海水で潤滑して用いていた。

  

                          (この項終わり)
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No.9 パナマのビール 2012/6/16

              パナマのビール Panama Beer

 パナマには代表的な4つのビールがある。写真左から、ソベラナ、アトラス、バルボア、パナマである。どれもスーパーマーケットで52〜55セントで、10%の税金を入れても日本円で50円ほどである。コカコーラの方が高いこともある。全体に味はさっぱりしていて暑いところで汗をかいた後に飲むのには適している。

 
                            
 ではパナマの人はよくビールを飲むかというとそうでもないようである。これは食事の習慣とも関連しているのではないか。パナマでは昼食はボリュームがあってたっぷりしているが、夕食は軽く済ませる。従って夕食にビールを飲みながらゆっくりと食事をするという感覚ではない。夕方の6時ごろにパナマ人のお宅にうかがうと、夕食が出るかどうかを判断するのが難しい。どうかすると夕食は出ないので、空き腹をかかえて帰ったこともある。

パーティーなどではビールは出るが一方でサングリアという甘い酒が出る。どちらかというとサングリアの方が人気である。筆者も実はサングリアの方に行ってしまう。パナマのパーティーでは、飲むのと踊るのが半々という感じだから、ぐでんぐでんに酔って踊れなくなってもいけない。

さて、先日一時帰国したときに本ホームページの管理者から一本のビールを渡された。銀河高原ビールである。小麦粉のビールで日本のビールの中では個性が際立っている。それだけに好き嫌いはあると思う。筆者はきらいではないが積極的に買って飲むというほどではない。しかし、たまにおいしい料理と合わせて飲むといい雰囲気になるように思われ、飲むのが楽しみなビールである。

       
 

本ホームページの管理者から言われたのは、このビールをパナマという熱帯で飲んだらどうだろうか、ということであった。そこで現場作業が続いた暑い日にこれを飲んでみた。ついでにパナマビールも飲んでみて比較検討した。パナマのビールの中で標準的と思える「パナマ」を比較の対象とした。

       

 当然ながらかなりのどが渇いていたので、初めはごくごくと飲んでしまった。このような飲み方をするには、銀河高原ビールは少々個性が強すぎる、という感じである。一方のパナマビールはこの目的のためには最適であった。

その後ゆっくり飲むと銀河高原ビールの個性が際立ち、パナマビールが水のように思えた。ビールの味を楽しむのなら銀河高原ビールの方が素敵だ。

判定であるが、総合的にはパナマビールが熱帯で飲むには適していると言えると思う。しかし肉類などの重めの食事に合わせるとすると銀河高原ビールのような個性のあるビールもなかなか捨てがたい。

ちなみにパナマでも外国のビールを売っている。たとえばベルギー産のビールなどは味が濃くておいしいが、銀河高原ビールと同様にのどが渇いたときにごくごくと飲むという感じではない。食事をしながらゆっくりと一杯を楽しむという感じだと思う。

             

 余談だがパナマへ行く途中に立ち寄ったニューヨークのレストランで飲んだベルギー発祥の
Stella Artoisは大変においしかった。少し涼しめの気候にはこのような濃いビールが良いようである。

                         (この項終わり)

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No.10 ペラメ(パナマはスペイン語) 2012/6/16

                 ペラメ

パナマの言語はスペイン語である。

日本人によく知られたスペイン語としては、アミーゴ、アディオス、マタドールなどがあるが、英語に比べて数は少ない。

スペイン語は日本人にとっては学びやすい言語と思う。何より、発音の数が少ない。これがフランス語になるととたんに発音が複雑になるが、スペイン語は日本の50音よりももっと音が少ないかもしれない。よって聞きやすい。少々耳が遠くなりかけている私にとってはとてもありがたい。

また、難しい単語になればなるほど英語と共通の部分が増えるので、英語を知っている人は有利である。基礎的な単語さえ覚えれば、あとは英語をスペイン語型に変換すればいい。たとえば英語の Conversation(会話) はスペイン語ではConversacion(コンベルサシオン)、英語のRefrigerator(冷蔵庫) はスペイン語では Refrigerador(リフリヘラドール) となる。ドールというのは英語の-er-orと同じで何かをするもの(人)という意味だ。スペイン語では「殺す」、を「マタール」と言うからマタドールは殺し屋。

以下少しややこしい説明をさせてもらう。

スペイン語の難しさは二つあると思っている。一つは動詞の活用で、個々の動詞に対して50近い活用がある。活用は、人称と数と時制と法で決まる。

・人称:一人称、二人称、三人称の3種類

・数:単数と複数の2種類

・時制:現在、点過去、線過去(過去が二種類ある)、未来、過去未来の5種類

・法:直接法、命令法、接続法の3種類

よって活用は3×2×5×390活用あるということになるが、組合せによっては存在しないものがあり、全部で50弱になる。

もう一つのむずかしさは構文で、日本語にも英語にもある受け身形というのがほとんど(ゼロではないが)使われない。だから「私は中村さんに招待された」というとき、うっかり「私は」から始めてしまうとにっちもさっちもいかなくなる。スペイン語だと、「中村さんが私を招待する」と言わなければならない。そこの頭の切り替えがなかなかうまくいかなくて途中で立ち往生するのである。

たとえば、XXに驚かされた、というのは英語だと受け身を使って

I am surprised at XX.

ということになるがスペイン語では

XX me sorprende.

となる。スペイン語では「私」の目的格である me を動詞の前にもって来て能動形で言う。このmeの位置がなかなか納得できない。

ところがこのmeが場合によっては動詞の後にくっついた形で言われる。たとえば、(私を)待っててね、というのは

Esperame. (待つという動詞の命令形=Espera

というひとことになる。最後のmeが先の「私」の目的格だが、これが動詞と一語になってしまう。

この目的格代名詞の使い方が英語と違うので、スペイン語を学ぶときのハードルになる。しかし、慣れると上記の命令形のように短く言う言い方もあって便利だ。

難しい話はおしまいにして、パナマの会話によく出てくるが正統のスペイン語とは思われない言葉を三つ紹介しよう。パナマにおいでになるなら、これを覚えておくと会話が聞きやすくなる。

ポラキー: Por aqui

「このあたり」、という意味である。「あのあたり」なら「ポラジー(Por alli)」。

タクシーで「ここで止ってくれ」、と言うとき、「ここ」の「アキ」(Aqui)だけを言うと「あっ、ここ!」みたいな言い方になって急停車することになる。ゆっくり止まってもらおうと思ったら「ポラキー」と言う。ポラキーもポラジーも会話にはしょっちゅう使われる。はじめのうちは何のことかさっぱりわからなかった

アシミモ:Asi mismo

「そうなんや」とか、「そのとおりやな」みたいな意味合いで使う。ミスモと明確に発音せず、ミモとかミーモとか発音するのはパナマ独特らしく、正統スペイン語から見ると「いなかもん」と見られるらしい。しかし、このパナマ弁はよく会話に出てくる

ペラメ:Esperame

先に紹介した「待っててね」であるが、Esの音が抜けてペラメとなる。こんなもん、教科書に載っているはずがない。

パナマに来ておよそ一年。まじめに努力していないのでスペイン語の会話力はいまひとつ。でもだんだんスペイン語が好きになってきた。そのかわり英語を忘れつつあるのが悩みだ。

                         (この項終わり)
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No.11 パナマ人の休日の過ごし方 2012/7/18

           パナマ人の休日の過ごし方

日本で週の初めに気の合った人に会ったら、「週末はどう過ごしていたのか」と聞くだろう。旅行に行ったとか、スポーツをしたとか、絵画や音楽を楽しんだ、ビールを飲みながらテレビで野球の観戦をした、子供と遊んだ、休日出勤をした、などいろいろあるだろうが、中には「家でごろごろとして休養した」というのもあるかもしれない。

日本では家でゆっくりというのは結構少数派ではないかと思うが、パナマでは90%以上がそれである。良くてどこかの海岸に行ってのんびり過ごした、というぐらいである。

もっとも、家でゆっくり、という中には教会のミサに出席するのも含まれる。誕生祝パーティーをしたりというのもある。家のメンテナンス作業が含まれていることは多い。ペンキを塗ったり、庭の手入れをしたり、中には水道の工事を自分でした、とかもある。DIYショップに行くと家のメンテナンス用の材料や道具はかなり揃っている。

優良企業に勤めて良い給料をもらっている人は旅行などもするらしいが、一般庶民はほぼ「休日は家で過ごす」という考えである。

日本にいると、休日も何かしなければならないような気がして、あれをしようかこれをしようかと迷ううちに終わってしまい、後悔だけが残った、というようなことがありそうな気がする。しかし、パナマの人たちのように「休日こそ家で過ごそう」と思えばのんびりと過ごして悔いがない。これはなかなか優れた考え方だと思うし、欲がない。欲が出ると苦しくなる、などと草枕のようなことを言ってみても、いったん日本人としてしみついた欲は容易なことでは落とせない。

月曜日にパナマの勤務先のおっちゃんと話をすると、プラジャ(海岸)へ行ったか?と聞かれる。そわそわと休日を過ごしていることがお見通しなのである。こちらが「週末はどうしたか」と聞けば「家で休養さ」という答えが返ってくるのはほぼ100%予想できるが、予想できる話など無駄、という考えはなく、楽しそうに毎週同じ話をするのである。

                           (この項終わり)

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No.12 カスコビエホの景観と周回道路の建設について 2012/8/12

        カスコビエホの景観と周回道路の建設について

               

 カスコビエホはパナマが誇る美しい旧市街である。スペインの侵略後に最初に建設された市街は災害のためか侵略のためか放棄され、17世紀にこのカスコビエホが新たに建設されたとのことである。ユネスコの世界遺産としても登録されていて、パナマ有数の観光地である。今でも大統領府や外務省の一部はここにあるし、国立劇場もある。単に古い街として残されているだけではなく、政治や文化の舞台としても機能しているのである。

<カスコビエホ>




 ところでこのカスコビエホの海側を周回する新しい自動車道路が建設されつつある。パナマ湾は遠浅なので、これを埋め立ててあたらいい道路を作るのは比較的容易なのであろう。しかしこれができると、これまでは海に面して美しい景観を誇っていたカスコビエホもややその美しさを失うのではないかと思われる。この道路はすでに建設が進み、私のアパートから見えるカスコビエホの美しい文化庁の建物も近々その道路に囲まれてしまう。パナマにもこの建設への反対運動はあると聞いているが、あまり表だった行動は見られない。

周回道路の建設現場

 さて、パナマ市内の交通渋滞はひどく、通勤時間帯のみならず昼間も連日のように激しい交通渋滞があたりまえに発生する。バスに乗るより歩く方が早いというのはよくあることである。この交通渋滞を解消するためにはどこかに新しい道が必要だというのは納得が行く。パナマは経済成長が続いているから、道路がこのままなら渋滞は年々ひどくなるものまた間違いないところである。

 カスコビエホ外周の新しい道路の建設は、日本の鞆の浦沖の道路建設と地理的な条件がよく似ている。景観に対する懸念なども同様である。しかしパナマは日本ほどには経済的に裕福ではなく、まず生活に役立つ建設が優先することはやむをえない部分もあると思う。

 景観の価値がどうで、経済的な価値がどうという話は景観という主観的な値を評価せねばならず、また経済という先の見えない話もしなければならず、一筋縄ではいかないものであろう。そこで、この話はさておくとして、ひとつこういうことを考えてみる必要があると思う。たとえば、カスコビエホは美しいが、それはカスコビエホができる前の景観を破壊して成立したものだということである。カスコビエホができる以前はどうだったのか。白砂青松の海岸であったであろうか。あるいはマングローブが茂って生態系の豊かな場所であったかもしれない。現在のカスコビエホはそれを破壊してこそできあがったものだというのはまず間違いないであろう。

 もしかして今から数十年後、大統領府や外務省の機関などは、道が狭くて使いにくいカスコビエホからもっと広い他の場所に移ったとしよう。カスコビエホは徐々にゴーストタウン化し、観光資源としては役に立たなくなり、やがて人が住まなくなって数百年後には白砂青松の美しい海岸にもどってしまったとしよう。その結果を見て、ああ景観は回復された。良かった良かったと言えるだけの見識を人々は持ち得るのだろうか。

 ここにもうひとつ、カスコビエホに重なって見えるアマドールという場所を紹介したい。このアマドールというのは、パナマ運河を掘削したときに発生した土砂を使って埋め立てたものと聞いている。海をつっきった人口の通路であり、遊歩道があり、道路に沿って木が植えられていてそぞろ歩きにはとても良い場所である。カスコビエホとアマドールを見通せる場所もあり、両者があいまって美しい景観を作り出している。

 しかし、アマドールは比較的最近作られた人口の陸地である。これがなかった当時の景観はどうであったか、写真等がみつからないので何とも言えないが、少なくともアマドールもそれ以前の景観を破壊して作られたものであることについてはカスコビエホ同様まちがいのないことである。

    アマドールの遊歩道。右側がカスコビエホが面している湾、
    左側はパナマ運河に向かう船が往来する海域になっている。

 アマドールもカスコビエホもその景観が今は受け入れられていて、それ以前の景観を破壊してそのようなものができたのだというようなことを改めて考える人はいない。現在建設中のカスコビエホ周回道路も、その道路が観光名所となるほど美しいものであれば、それはそれで価値があるかもしれない。現在の景観が美しければそれを壊したくないと思うのは自然であるが、この景観を越える美しい建造物を作ってみせる、と言えるならば、それもよいかな、と思う。それぐらいの努力をして建設する、と言われれば、そう無下にも反対はできないのではないかと思ってしまう。

 ところで、ユネスコはこの道路の建設を知らないのかと思っていたがそうではなく、昨年この工事を中止するようにパナマ政府に申し入れている。ところがパナマ政府の内部の連絡の手違いだか、意図的な行動だかで工事関係者にはゴーサインが出され、建設は進行している。しかし、最近このことが新聞で明らかにされたので、今後の政府の動向が注目される。どうなるのだろうか。                                                           
                               (この項終わり)

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パナマ共和国基礎データ(MOFA)
在パナマ日本大使館・総領事館(MOFA)