別の市場、「国際市場」へ

 翌日、衣料、生活雑貨、靴、生活用品の種類が多く安いと言われる国際市場へ行った。チャガルチ市場が海鮮、食品中心に対して、「家電からチマチョゴリまで」と言われるマーケットである。1950年の朝鮮戦争直後の動乱期に、アメリカ軍に出入りしていた商人達が、軍事物資や救護物資を売っていた「ヤミ市」だったのが始まりとか言う。400軒以上の多種多様な店が集まっており、タンスから造花までなんでも手に入るそうである。間口の狭い小さな店から、集合ビルの地下街まで店の規模も雑多である。

 筆者は革製のジャケットが欲しかったので、革製品の店をのぞいてみた。いろいろたずねていたら、中年の店長は「下の部屋にはいっぱいあります」といって、地下の部屋に連れて行かれた。なにやら怪しげな入り口を通ると、天井は低いが広い部屋があった。そこにはグッチなどブランド物が、上は毛皮のコートから下は小さな財布までひととおりそろえられていた。感心してみていると、主人は声を落として、「これはみんな本物ではありません。」と言う。「偽ブランド品」なのであった。「安くするよ。おみやげにどうですか?」と薦める。 日本の空港には、たいがい「旅行者の皆様にお願い」と称して、以下のような表示がある。
 

 下記の品物は、法律により日本国内への持ち込みが禁じられたり制限されています。
   1 麻薬やそれに類する物、一部の劇薬、医薬品
   2 銃砲刀剣類や武器類、爆発物、有毒性物質
   3 生き物や土のついた植物、種子など
   4 外国メーカー(ブランド品)の模造品
   5 ワシントン条約等で定められた鳥獣等やその製品
   6 公序良俗を乱すおそれのある図画文書写真等   
等々・・・


 これに照らしてみると、ブランド品の偽物は、買って持ち込むだけで違法となる。仮に「偽物とは知らなかった。」と言い逃れをしても、没収か放棄であろう。毛皮のコートも養殖物なら良いかもしれないが、それなら「証明書」がつくであろうし、この店では売らないであろう。買う気もないので確かめはしなかったが、あぶなそうな毛皮もあったし、禁止のはずの「ワニ製」という財布もあった。すべて法に触れそうな製品ばかりである。観光客も買う方も、「偽物」と知って買っているわけだ。買った人は、きっと日本で「これ偽物なんだ。良くできているだろう」と友人に自慢するのだろう。そういう人達がいるから、世界で密猟(漁)やニセ物商売など、不正がはびこるのだ。そそくさと店を出た。

 それにしても、この辺りには、革製品関係の店が多いし、なめしや縫製技術のことは、くわしくは分からないが、価格は、日本よりもはるかに安い。日常生活で気楽に使うには、適している。店内の客は少なく、歩いていると日本語でどんどん声をかけられる。買い物が大好きで、値引き交渉が好きで、値打ちが分かる者には、楽しいところかもしれない。
 
 さらに進むと、電気製品を売っている路地へ出た。と言っても東京の秋葉原や大阪の日本橋とは異なり、ささやかな店が多い。韓国製に混じって、日本製もたくさん並べてある。次に、いわゆる「グルメ通り」に出ると、下のような光景に出くわす。段ボール箱や台の上に、多くの種類のキムチが入った容器や焼き魚、麺類、日本ののり巻きに似たものやギョウザ風のものなどが並べられ、おばさんが座っている。台の反対側には、イス代わりの背の低い足の付いた台がいくつかあり、客が座って食べている。日本円200円‐300円で食べられるという。まるで終戦直後の日本の「ヤミ市」を見るようであったが、笑い声が響き一種の庶民の社交場のようでもあった。