たまたま安い船旅ツアーがあったので、韓国のプサンへ行くことにした。筆者はもともと「船旅」は嫌いではない。時間さえあれば、大変楽しいものである。国内では、屋久島、五島列島、隠岐島、佐渡島、伊豆大島、利尻島、日本半周客船ツアーなどとずいぶん昔に個人、職場で行ったものだ。国外では、イタリアのナポリ−カプリ島、英仏間のドーヴァー海峡フェリーなども印象に残る。
ドーヴァー海峡フェリー Seafranceサイトより転載
だいたい未知の土地へ渡ること自体から言って、胸がわくわくし心が躍るものだが、そこに着くまでに船内でじわーと想像力が高まっていくのがよい。それが飛行機であれば、何となくあわただしく、狭い座席に縛られて、食事もむりやり詰め込まれる感じで、速いけれど決して快適とは言えない。(口の悪い人はこれを「ブロイラーハウス」という。)だが、船は違う。寝るにも、くつろぐにも、ゆっくり手足を伸ばせる。そして飛行機のスチュワーデスの「過剰サービス」がなく、「ほっておいてくれる」のが良い。しかも、本は一冊ぐらいはすぐ読めるし、これから訪れる国のガイドブックを初めて開けても良い。これまでの私たち夫婦の海外旅行は、あわただしい飛行機利用中心で、ただ目的地に着けばよい―という感じであったが、旅の途中そのものを楽しまない法もない訳だ。
閑話休題、以前何気なしにJTB発行の大時刻表を見ていると、巻末に日本発着の国際航路が載っていた。NHKの「北方領土墓参団特集」を見ていて、エトロフ、クナシリはぜひとも行ってみたかったのだが、やはりそんな便はなかった。きっとチャーター便なのであろう。がっかりしたが、ひとつだけそれに近いのがあった。それはサハリン(樺太)行きであった。全部でこれだけ「海外=外国行き」があった。
日本と外国間のフェリー航路一覧 (順不同・1998年)
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航路名 |
出発地 |
到着国 |
1
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小樽、稚内−コルサコフ |
北海道 |
ロシア・サハリン(日本名樺太) |
2
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新潟・高岡−ウラジオストック |
新潟県 |
ロシア |
3
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下関−プサン(釜山) |
山口県 |
大韓民国 |
4
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下関−チンタオ(青島) |
山口県 |
中 国 |
5
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福岡−プサン(釜山) |
福岡県 |
大韓民国 |
6
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福岡−テンチン(天津) |
福岡県 |
中 国 |
7
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大阪・神戸−シャンハイ(上海) |
大阪府・兵庫県 |
中 国 |
8
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長崎−シャンハイ(上海) |
長崎県 |
中 国 |
9
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那覇−基隆、高雄 |
沖縄県 |
台 湾 |
10
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神戸−テンチン(天津 ) |
兵庫県 |
中 国 |
外国の3カ国1地域8港へ船に乗って行けるのだと思うと、考えただけで楽しくなる。行きたい「北方四島」にいちばん近いのは、やはりサハリンであったが、料金を見て驚いた。何と2等で往復9万円!、同一料金で飛行機でオーストラリアに行って帰ってこられるのだ。
確かに「船で世界一周400−2000万円」というのはある。それはプール付きの超豪華客船の話だ。しかしこれは、たかだか3000トンの昔の「青函連絡船クラス」の普通のフェリーの話である。急に夢がしぼんでしまった。ロシア本土は治安が悪いと言うし、中国は昨年「シルクロード」へ行ったしと、なんとなく「外国へ船旅」のアイデアはそのままになっていた。
前置きがずいぶん長くなったが、ある日職場に旅行会社のセールスが来ていて、海外の船旅についてたずねると、「当社の福岡支店主催で韓国フェリーツアーの安いのがありますよ」と言う。後日パンフレットを送ってもらうと、《下関発着プサン船の旅4日間19,800円から》とある。第一希望の北方領土とは方向も全然違うが、一万円台という値段が気に入った。安いって素晴らしいことだ。すぐに連絡を取って予約をした。
「韓国」というと、18年ほど前にロスアンジェルス―ニューヨークに行ったとき、トランジット(乗り換え)のソウル金浦空港内で、延々6時間待たされたことがあるだけである。話は脱線するが、その時の大韓航空KE007便は、1年ほどしてソ連の戦闘機に日本海で墜とされ、乗員乗客全員が死亡した。当時そのニュースを聞いて、冷や汗がどっと出たものだった。
考えてみると、いちばん地理的にも歴史的にも日本と近い隣国、大韓民国(韓国)を旅行していないのは、筆者としては不自然なことなのだ。社会科の授業で、稲作の伝播以来、漢字仏教儒教の伝来、遣唐使の通過、元寇に「協力」した高麗の来襲、秀吉の朝鮮侵略、江戸期の朝鮮通信使、明治以後の日本による植民地支配、朝鮮人強制連行、慰安婦問題、在日問題など数えてもきりがないほど、この国と日本はつながっている。
だからといって、2,3日行ってみても、この国の理解にはなんの役にも立たないだろうが、せめて何か一つでも分かればいいかと思った。経済がどん底で、ヒュンダイ(現代)グループではストライキで揺れて、国も危機的状況だと言うが、人々の様子ははどうなのか見たかった。こういう想いから行くことにした。
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